AUTOPHAGY オートファジーについて

オートファジーって何?

1 細胞の中の社会

私達の身体は約37兆個の細胞からできており、そのひとつひとつが生きています。健康とは細胞が健康だと言うことであり、病気になるというのは細胞が病気になっているのです。 細胞一つ一つはとても小さく顕微鏡を使わないと見えません。しかしその中にはまるで人間の社会のような複雑な営みがあります。ミトコンドリアという細胞小器官は発電所の役割を果たしエネルギーを作っていますし、細胞の中には物質を運搬する交通網まであります。

細胞の中の社会

私たちの細胞の中には、細胞小器官と呼ばれる様々な構造物が存在します。これらは、人間の社会の工場や発電所の相当します。そして数万種類に上るタンパク質が、ちょうど職業が異なる人間のように働いています。タンパク質やその他の物質が細胞小器官の間を往来しており、そのための交通網があります。

2 オートファジーの役割その1
細胞の新陳代謝

オートファジーとは、そのような細胞内社会において、清掃車のような細胞小器官オートファゴソームを使ってものを回収して、ゴミ処理工場のような小器官リソソームに運び、そこで分解とリサイクルを行う仕組みです。 オートファゴソームが集めるのは実はゴミではありません。まず細胞の中にあるものを何でも少しずつ無作為に取り込んで分解します。分解されたのと同じものが、すぐに製造工場で作られるので見た目は何も変わりませんが、細胞の新陳代謝が起こります。 つまり車の部品を毎日少しずつ新品と交換するのと同じで、細胞は何十日かすると新車に生まれ変わっているのです。ちなみに分解産物は100%再利用されます。タンパク質が分解されるとアミノ酸になりますが、そのアミノ酸は新しくタンパク質を作るのに使われたり、あるいはエネルギーに変えられたりします。

オートファジーは物質の輸送・分解・リサイクルを担う

細胞の中にお皿のようなもの(隔離膜)が出現し、これがパックマンのように細胞の中の物質を包み込んで口を閉じます。それがオートファゴソームで、できたオートファゴソームは細胞内を交通網に乗って移動しリソソームという細胞小器官のところまで行きます。そして両者が「融合」し中身が混ざり合います。リソソームの中には消化酵素があるので、取り込んだタンパク質などが分解・再利用されます。オートファゴソームは清掃車あるいはロボット掃除機に、リソソームはゴミ処理・リサイクル工場に例えられるかもしれない。

3 オートファジーの役割その2
有害物の排除

オートファゴソームは無作為な回収だけではなく、有害なものが細胞内に現れるとそれを察知して取り込みに行きます。例えば病原性細菌やウイルスが細胞に感染すると、それらを取り込んで隔離しリソソームに運び分解します。他には壊れたミトコンドリアも取り込みます。壊れたミトコンドリアからは毒性の強い活性酸素が漏れ出すので放置すると危険だからです。 オートファゴソームが取り込む有害物は多種類です。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と呼ばれる病気は、脳の細胞の中に異常なタンパク質の塊ができて細胞が死ぬことで起きます。オートファゴソームはそのような異常なタンパク質を取り込んで分解し病気を防ぎます。

オートファジーによる有害物の除去

:アルツハイマー病やパーキンソン病等の神経変性疾患は、タンパク質が凝集して塊を作りそのせいで神経の細胞が死ぬことで起こります。オートファジーは、プロテアソームという別の仕組みと共にそのようなタンパク質を分解して凝集を防ぎます。
右上:細胞内に侵入した溶連菌を包み込もうとしているオートファゴソーム(矢印)の電子顕微鏡写真。吉森らが、オートファジーが病原体を殺すことを世界で初めて発見しました。この溶連菌以外にもたくさんの細菌やウイルスがオートファジーによって排除されます。
右下:細胞内のサルモネラ菌(赤紫)をオートファゴソーム(緑)が包み込む様子を撮影したビデオ映像。菌を狙って(選択的に)オートファゴソームが作られる過程を吉森らが世界で初めて撮影に成功しました。

4 オートファジーの
低下が
病気を起こす

オートファジーはこのように、細胞の新陳代謝と有害物除去の2つの作用を通して細胞の健康を守っています。では私たちはオートファジーがあるのになぜ病気になるのでしょうか。まず有害物がオートファジーの処理能力を上回って増えたときが考えられます。 またオートファジーの働きが何らかの理由で鈍っても病気になります。実際、高脂肪食を食べさせたマウスの肝臓ではオートファジーの能力が低下することが判明 しました。オートファジーは肝臓の細胞の中に溜まる脂肪の塊(脂肪滴と言います)を分解してくれるのですが、オートファジーの働きが鈍ると肝臓に脂肪がどんどん溜まってしまいます。 肝臓に脂肪が溜まると脂肪肝という病気になります。脂肪肝を放置していると肝硬変や肝がんになることもあります。脂肪肝は生活習慣病の一つで、日本では成人の4人に1人がなっていると言われています。オートファジーの低下がこの病気の原因のひとつだった訳です。 実験動物で人為的にオートファジーを止めてしまうと実に様々な病気になることが分かっています。もしマウスで受精の時から全ての細胞でオートファジーを止めてしまうと、生後1日で死んでしまいます。こう言った実験から、オートファジーが病気を防いで健康を維持するためにとても重要であることがわかってきました。

オートファジーは様々な病気を防いでいる

オートファジーは、細胞の新陳代謝と有害物の選択的排除のふたつの働きを通して様々な病気を防いでいます。そのなかには社会的な問題になっている重要な病気がたくさん含まれています。

5 歳を取ると
オートファジーが
低下する

さらに、歳を取るとオートファジーの働きが鈍ってくることも分かってきました。加齢性疾患と言って、歳を取ると様々な病気になりやすくなります。アルツハイマー病などの神経変性疾患や加齢性黄斑変性、腎臓の線維化など加齢性疾患は沢山あります。 それらの病気の一部はオートファジーの低下が原因で起こっていたり、あるいはオートファジーの低下で病状が悪化しているかもしれません。

6 オートファジーが
皮膚の色を決める

オートファジーは皮膚の色の決定にも関わっています。皮膚の色は、皮膚の細胞の中のメラニンという色素の量で決まります。そしてオートファジーはメラニンを貯蔵している細胞小器官メラノソームの回収分解を行っています。 面白いことに、白人の皮膚細胞ではオートファジーが活発でメラノソームがよく分解されメラニンが減りますが、黒人では不活発でメラニンが多く残っています。日本人の皮膚の細胞を取り出してきて、オートファジーを活発にする薬剤を投与したところ、色が白くなるという実験結果も出ています。

オートファジーが皮膚色をコントロール

色素細胞で作られたメラニンはメラノソームという細胞小器官に蓄えられ、メラノソームが皮膚の細胞である角化細胞に移行し皮膚の色を決めます。メラノソームは角化細胞のオートファジーによって分解されるので、オートファジーの活発さが皮膚の濃淡を左右します。